起業事例インタビュー#2 地域医療に必要とされる整骨院を目指して【おくのまち整骨院】
エピソード2・・・おくのまち整骨院 長谷川さん
新年度が明けてようやく落ち着いてきたので、冬に貯めていたインタビュー記事を投稿していきます。
今回、お話を伺ったのは横田地区の蔵市内で『おくのまち整骨院』を開業された長谷川さんです。長谷川さんは、松江市の出身で奥様の故郷である奥出雲町に移住し起業しました。島根県産業振興財団からの委託事業である「はじめての起業じゅく」にも参加し、起業について学びながら開業準備を進めていました。
起業してから2年が過ぎた今、起業までの道のりや開業してからの様子についてお話していただきました。

◾️整骨院開業に至った経緯
ー整骨院の開業を考え始めた経緯について教えてください。
柔道整復師の養成校を卒業した後、強い希望があり新卒で病院へ就職しました。柔道整復師の多くは将来的に開業を目指す人が多いのですが、私も最初から開業することを視野に入れていました。そのため、骨折や脱臼などの外傷に対する処置技術やエコー画像の分析などを学ぶために、医師と連携できる病院を選択しました。
その後は地元の松江市にUターンし、整骨院で約4年間働きました。しかし自分の技術不足を感じていたため、再び広島県の整形外科や総合病院での経験を積んできました。
広島での勤務を終えて、妻の地元である奥出雲町へ戻ることを決めたと同時に、このタイミングで開業をしようと決めました。

ーなぜ奥出雲での起業を選択肢したのですか?
長谷川さん:柔道整復師になった理由も、自分が怪我をしたなど明確なきっかけはありませんでした。なんとなく、「怪我をした人を治す仕事」に惹かれてここまで続けてきて、開業できればいいかなくらいの気持ちでいたのが正直なところです。
しかし、全国で活躍する柔道整復師の方々の活動を見ていて、「地域のために頑張ってるな」と感じることが増えてきてから少しずつ自分の意識が変わっていきました。
そして広島から松江市に戻ってきた時に、地域に深く関わる医療のあり方を自ら実感し、「地域に貢献できるって素敵だな」と思いました。妻の地元である奥出雲町を訪れた時は広島で働いていた田舎の風景によく似ていて、当時のことを思い返しました。その病院ではとても患者さんとの距離が近く、よく患者さんのことを知ることができました。そこで見えた課題は、一定期間のリハビリテーションを終えたあとに頼る場所がなくなり、悪化していく人たちがいたことです。
奥出雲には医療機関が少ないことや人口減少が著しいことも知っていたため、奥出雲町で自分が開業する意義があるのではないか、自分の力を活かせるかもしれないと強く感じ、決意しました。

◾️開業までの道のり
ー整骨院の開業には場所選びが重要だと思いますが、どのように決めたのですか?
横田地区にあるスーパー「蔵市」の中に設置できたことは、今振り返ると、本当にいい立地で開業できたなと思っています。
おくのまち整骨院は、地元の人たちが普段から買い物に訪れるショッピングエリアの中にあって、買い物ついでに立ち寄りやすい場所です。正直、他の場所でやっていたら、ここまでの来院はなかったと思います。
「買い物ついでに来ました」っていう患者さんの声は本当に多くて、やっぱりそれがこの場所の強みだなと実感しています。
整骨院は、カフェやレストランみたいに「目的地」になる場所ではありません。身体がつらい中で、わざわざ遠くまで行くのは、とてもハードルが高く負担にもなります。だからこそ、通いやすさや“ついで”に立ち寄れる利便性が本当に大事なんだと、今になってよく分かります。

ー開業に向けて誰かに相談したりしましたか?
開業までの準備期間中、はじめての起業塾にも参加しました。
正直なところ、最初は「開業ってどうやってやるの?」という、すごくシンプルだけど根本的な不安がありました。僕は感情とか感覚で動くタイプで、「とりあえずやってみようか」みたいな勢いもあるんです。でも、それだけだと危ないなと本気で思いました。
最初は地元で信頼する方に相談したところ、当時地域おこし協力隊として起業支援をされていた落合さんをご紹介いただき、起業創業支援施設『みらいと奥出雲』でお会いしました。
その時に、「はじめての起業じゅく」が開催されることを知り、すぐに参加を決めました。
起業塾は、本当に楽しかったです。いろんな人と一緒にやれる環境があったことで、不安が一気に解消されました。同じようにチャレンジしようとしている仲間がいるっていうのは、すごく心強かったです。

ー具体的にはどのような課題が生まれ、どのようなサポートが役立ちましたか?
起業塾に参加して、開業にはどういうステップが必要かが分かってきたころ、次にぶつかったのが“現実的な課題”でした。起業じゅくに参加したことで、足元の課題と向き合いしっかり足を止めて考える時間を作れました。
まず見えてきた課題は「意外とお金がかかるな」ということと、「集客の方法」です。集客に関しては開業前から地域を訪問していたこともあり、ある程度は顔を覚えていただいていました。いきなりゼロからのスタートではなかったため、少しずつ口コミが広がっている感覚がありました。開業当初はチラシの効果が絶大で、体験イベントには町内外から多くの人が来てくれました。特に、病院に行かずに膝や肩の痛みを相談できる場として、高齢者に喜ばれました。最近ではSNSの影響で学生の来院も増え、地域での認知が広がっています。
資金に関しては、商工会の補助金を紹介いただき、なんとか開業資金を調達することができました。自分では起業に使える補助金があることも知らなかったですし、補助金が取れていなかったら開業はできていませんでした。
現実的な課題はもちろんぶつかりましたが、根拠のない自信かもしれません。でも、それがなければ一歩踏み出すこともできなかったと思います。

◾️地域医療に必要とされる整骨院を目指して
ーおくのまち整骨院の魅力を教えてください。
当院には、老若男女問わず来院してくださてますが、特に、スポーツ少年団や部活動に励む小中高生をはじめ、奥出雲町はホッケーの町とされているためホッケーをやっている選手にも多く通っていただいています。
私がこの仕事の中で特に魅力を感じているのが「エコー(超音波観察装置)」の活用です。エコーは、体の内部をリアルタイムで確認できるため、痛みの原因を視覚的に把握することができ、より的確な施術につなげられます。一般の方からすると、目に見えない痛みは不安を仰ぐため、なるべく理解できるように説明すると安心していただけます。
実際、エコーがなければ開業していなかったと思うほど、自分の治療に欠かせない存在です。奥出雲町でエコーを積極的に取り入れている整骨院は非常に限られており、島根県内でも数件しかありません。そのため、当院は地域に根ざしながらも、専門性の高い技術と設備で、他にはない価値を提供していける整骨院でありたいと思っています。

ーこれから目指していきたいことを教えてください。
開業して2年が経ち、ようやく地域の中で少しずつ整骨院としての役割が定まってきたと感じています。今後は、特に外傷やケガに対応できる場所として、さらに信頼される存在になり、「何かあったらまずおくのまち整骨院に」と思ってもらえる整骨院を目指していきたいです。
そのためには、地域の医療機関との連携が欠かせません。たとえば、病院の医師から医療機関での治療後にはおくのまち整骨院を紹介してもらえるような関係を築けたら、患者さんにとっても非常に助かると思います。地元で完結できる仕組みが整えば、遠くの病院まで行く必要も減りますし、地域にとっても大きな価値になると考えています。
私自身が目指しているのは、「地域医療の窓口」になることです。患者さんの中には、痛みがあっても「どこに行けばいいのか分からない」という方が多くいらっしゃいます。そうしたときに、まず私のところに相談に来てもらい、必要に応じて適切な病院や専門医に橋渡しできるような役割を担いたいと思っています。


長谷川さん、ありがとうございました!
おくのまち整骨院は医療機関との連携により、より身近に相談できる、地域の方々にとって安心して暮らせるまちの大切な場所であることがわかりました。